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掲載日2026.10.08
老後資金の必要額はいくら?夫婦・独身別の早見表と5ステップの計算式
老後資金の必要額は、夫婦か単身か、持ち家か賃貸かで大きく変わります。家計調査と最新の年金額をもとに、あなた自身の不足額を5つのステップで計算する方法と、埋めるための具体的な選択肢を解説します。
老後資金がいくら必要なのか。その金額を、この記事では最初にお伝えします。
ただ、その金額は統計上の平均であって、あなたの金額ではありません。夫婦二人で暮らしていくのか一人なのか、家賃を払い続けるのかローンを終えた家に住むのか、厚生年金を積み上げてきたのか国民年金だけなのか。この違いだけで、必要額は数百万円から数千万円の幅で動きます。
そこでこの記事は二段構えにしました。前半で平均額と、その数字がどこから来たのかを確認します。後半では5つのステップを踏んで、あなた自身の金額を出します。そして最後に、出てきた不足をどう埋めるかまで扱います。
手元にねんきん定期便があれば、読み終わるころには自分の数字が出ているはずです。なければ後ほど確認の方法をご案内しますので、そのまま読み進めてください。
1. 老後資金の必要額、まずは平均から
夫婦二人の世帯では、毎月4万2434円足りない
総務省の家計調査によると、2025年(令和7年)の65歳以上の夫婦のみ無職世帯は、実収入が月25万4395円でした。そのうち年金などの社会保障給付が22万8614円で、収入の約9割を占めています。
一方の支出は、消費支出が26万3979円。これに税金や社会保険料などの非消費支出3万2850円が加わり、合計29万6829円が毎月出ていきます。
収入と支出の差は、毎月4万2434円の不足です。
一人暮らしでは、毎月2万9980円足りない
同じ調査で、65歳以上の単身無職世帯を見ると、実収入は月13万1456円。消費支出14万8445円と非消費支出1万2990円を合わせた16万1435円に対して、毎月2万9980円が不足しています(参照*1)。
| 項目 | 夫婦のみ無職世帯 | 単身無職世帯 |
|---|---|---|
| 実収入 | 25万4395円 | 13万1456円 |
| うち社会保障給付 | 22万8614円 | 12万212円 |
| 消費支出 | 26万3979円 | 14万8445円 |
| 非消費支出 | 3万2850円 | 1万2990円 |
| 毎月の不足額 | 4万2434円 | 2万9980円 |
30年分に換算すると、夫婦で約1528万円
この不足が65歳から続くとして、単純に掛け算をします。
夫婦のみの世帯であれば、4万2434円の12か月分が年間50万9208円。これが20年続けば約1018万円、30年続けば約1528万円になります。
単身の世帯なら、2万9980円の12か月分が年間35万9760円。20年で約720万円、30年で約1079万円です。
これが、老後資金の必要額としてよく目にする金額の正体です。1000万円台という数字を見たことがあるなら、ほぼこの計算から出ています。
ただ、この表をそのまま持ち帰らないでください
先ほどの表には、あなたの家計に当てはめるうえで確認すべき点があります。住居費です。
夫婦のみ無職世帯の住居費は月1万7739円、単身無職世帯では月1万1416円しか計上されていません。家賃としては明らかに低い金額ですが、これには理由があります。同じ調査で、二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯の持ち家率は95.5パーセントでした。つまりこの1万円台という数字は、住宅ローンを終えた持ち家に住む世帯が大半を占めた結果の平均であって、家賃を払い続ける人の住居費ではありません。
仮に老後も月7万円の家賃を払うとすれば、表の住居費との差はおよそ5万3000円。これが毎月そのまま不足額に上乗せされます。30年では1900万円を超える差になります。先ほどの約1528万円という数字は、この条件一つで倍近くまで膨らむということです。
もう一点あります。この表の消費支出は、必要な金額ではなく、実際に使われた金額です。年金の範囲でやりくりした結果としての26万円であって、望む暮らしのための26万円ではありません。旅行や外食を控えた家計も、介護が始まった家計も、すべて同じ平均のなかに入っています。
だからこの記事は、ここで終わりません。平均を出発点に、あなたの前提を一つずつ置き換えていきます。
2.「老後2000万円」という数字はどこから来たのか
報告書に実際に書かれていたこと
この数字の出どころは、2019年6月3日に金融庁の金融審議会がまとめた「高齢社会における資産形成・管理」という報告書です。
そこにはこう書かれています。夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯では毎月の不足額の平均が約5万円であり、まだ20年から30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円から2000万円になる(参照*2)。
ここで一つ、見落とされてきたことがあります。報告書が示したのは「2000万円」という一つの数字ではなく、「1300万円から2000万円」という幅でした。1300万円は20年分、2000万円は30年分です。65歳から85歳までなら1300万円、95歳までなら2000万円。つまりこれは、何年生きるかで700万円動く数字だったということです。
報告書が同じ段落に書いていた但し書き
さらに報告書は、この金額について続けてこう述べています。あくまで平均の不足額から導き出したものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイルなどによって大きく異なる。当然、不足しない場合もありうる、と。
そして別の箇所には、もう一つ重要な注意書きがあります。この試算の支出には、老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用といった特別な支出が含まれていない、というものです。
この二つを合わせると、2000万円という数字の意味が変わってきます。これは「これだけあれば安心な金額」ではありません。日々の生活費の不足を埋めるだけの金額であって、介護が必要になったときのお金も、家の修繕費も、そこには一切入っていない。上限ではなく、下限に近い数字なのです。
報告書自身が伝えようとしていたのは、金額そのものではなく、平均余命を参考にしながら、公的年金以外で賄わなければいけない金額が自分の場合どの程度になるのかを考えてみることが重要だ、という一点でした。
同じ計算を最新のデータでやり直すと
では、報告書と同じ計算を今のデータで行うとどうなるか。
先ほど見たとおり、2025年の65歳以上の夫婦のみ無職世帯の不足額は月4万2434円です。20年なら約1018万円、30年なら約1528万円になります(参照*1)。
報告書の1300万円から2000万円と比べると、小さくなったように見えます。ただ、この差を「老後の負担が軽くなった」と読むのは早すぎます。
理由は二つあります。一つは、比べている世帯の条件がそもそも違うこと。報告書が使ったのは夫65歳以上・妻60歳以上の世帯で、今回の数字は夫婦とも65歳以上の世帯です。もう一つは、不足額が縮んでも、支出そのものは縮んでいないこと。月々の支出が増えても、それ以上に年金などの収入が増えれば、差額としての不足額は小さくなります。差額だけを見ていると、生活にかかるお金が増えている事実が見えなくなります。
そして何より、介護費用も住宅の修繕費も入っていないという但し書きは、今の数字にもそのまま当てはまります。約1528万円は、生活費の不足を埋めるだけの金額です。
だから、平均の話はここで終わりにします
2000万円も、1528万円も、あなたの金額ではありません。
あなたが受け取る年金はいくらなのか。老後も家賃を払い続けるのか。何歳まで生きる前提で計算するのか。介護にどれだけ備えるのか。退職金はあるのか。この5つが決まれば、あなたの数字は出ます。
次の章から、その5つを順番に埋めていきます。
3. 必要額を決めるのは、5つの数字だけ
必要額の計算式は、次の一行です。
必要額 =(毎月の不足額 × 12 × 年数) + 一時費用 − すでにあるお金
そして毎月の不足額は、さらにこう分解できます。
毎月の不足額 = 老後の生活費 −(年金の手取り額)
出てくる数字は、年金額、生活費、年数、一時費用、すでにあるお金の5つ。このうち一つでも自分の数字に置き換えれば、平均から離れた「あなたの金額」に近づきます。
ここから先は、この5つを順番に埋めていきます。紙とペンがあれば、数字を書き留めながら読んでください。
4. ステップ1:受け取れる年金額を確かめる
最初に押さえるのは年金です。ここが動くと、他の数字をどれだけ精密に計算しても意味がなくなります。
ねんきん定期便の、どこを見るか
毎年の誕生月に届くハガキが、いちばん確かな情報源です。ただし、書かれている金額の意味が50歳を境に変わります。
50歳未満の方に届く定期便に載っているのは「これまでの加入実績に応じた年金額」です。これは、今日までに納めた保険料だけで計算した金額で、これから先に納める分は一切入っていません(参照*4)。30代や40代でこの欄を見て少なさに驚いたとしても、それは加入期間がまだ短いというだけのことです。
50歳以上の方の定期便には「老齢年金の種類と見込額」が載ります。こちらは、今の加入状況が60歳まで続いた場合の見込額です。実際に受け取る額にかなり近い数字なので、この欄の金額をそのまま使ってください。
ハガキが手元になければ、ねんきんネットで確認できます。マイナポータルからも入れます。
会社員として働いてきた場合の目安
定期便がすぐに見られないときのために、目安も出しておきます。
厚生労働省が公表した令和8年度の年金額では、標準的な年金額として月23万7279円という数字が示されています。ただし、この金額の前提を確認してください。平均標準報酬(賞与を含む月額換算)45万5000円で40年間働いた男性の老齢厚生年金と、夫婦2人分の老齢基礎年金(満額)を合計したものです。
つまり、これは一人分ではなく夫婦2人分の金額で、なおかつ妻が40年間ずっと第3号被保険者だった場合の姿です。共働きでも、転職や離職の期間があっても、この金額にはなりません。
同じ資料には、もっと実態に近い数字も載っています。令和6年に65歳になった人の加入履歴をもとにした、経歴別の年金額(令和8年度の概算・月額)です。
| 経歴の類型 | 年金額(月額) |
|---|---|
| 厚生年金の期間が中心(20年以上)の男性 | 17万6793円 |
| 厚生年金の期間が中心(20年以上)の女性 | 13万4640円 |
| 第3号被保険者の期間が中心の女性 | 7万8249円 |
| 国民年金第1号の期間が中心の男性 | 6万3513円 |
| 国民年金第1号の期間が中心の女性 | 6万1771円 |
会社員として長く働いた男性でも、一人分では17万円台です。夫婦でどちらも厚生年金を積み上げてきたなら合計30万円を超えることもあり、片方が第3号中心なら25万円前後になります。あなたの夫婦の組み合わせがどこに当たるか、この表で見当をつけてください。
自営業・フリーランスとして働いてきた場合
国民年金だけで老後を迎える場合、話は変わります。
老齢基礎年金の満額は、令和8年度で月7万608円です。これは20歳から60歳までの40年間、保険料を納め続けた場合の金額で、未納や免除の期間があればその分だけ減ります。実際、先ほどの表にある国民年金第1号中心の人の年金額は月6万円台で、満額には届いていません。
夫婦2人ともこの働き方であれば、世帯の年金は月12万円から14万円ほど。家計調査が示した夫婦の生活費26万円台と並べると、毎月12万円以上の差が出ます。しかも会社員と違い、退職金という受け皿もありません。
厳しい数字ですが、目を背けても金額は変わりません。差が大きいほど、後半で扱う対策を早く始める価値があるということです。
手取りで考えることを忘れずに
もう一点だけ。年金にも税金と社会保険料がかかります。
先ほどの家計調査では、65歳以上の夫婦のみ無職世帯で月3万2850円、単身無職世帯で月1万2990円の非消費支出が計上されていました。年金額から、この分が差し引かれると考えてください。
ここまでで、あなたの年金額(手取り)が出たはずです。次は生活費です。
5. ステップ2:老後の生活費を置く
次は支出です。ここは「いくら必要か」ではなく「いくら使うことになりそうか」を見積もる作業になります。
まず、実際に使われている金額を見る
家計調査によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の消費支出は月26万3979円、単身無職世帯は月14万8445円でした。その内訳は次のとおりです。
| 費目 | 夫婦のみ世帯 | 単身世帯 |
|---|---|---|
| 食料 | 7万8964円 | 4万2545円 |
| 住居 | 1万7739円 | 1万1416円 |
| 光熱・水道 | 2万3540円 | 1万5565円 |
| 家具・家事用品 | 1万1237円 | 6069円 |
| 被服及び履物 | 5354円 | 3049円 |
| 保健医療 | 1万7941円 | 8388円 |
| 交通・通信 | 3万1325円 | 1万3601円 |
| 教養娯楽 | 2万6538円 | 1万6132円 |
| その他の消費支出 | 5万1341円 | 3万1681円 |
| 合計 | 26万3979円 | 14万8445円 |
目を引くのは「その他の消費支出」でしょう。夫婦で5万円を超えており、そのうち2万3257円が交際費です。冠婚葬祭、孫への贈り物、友人との付き合い。削ろうと思えば削れるけれど、削ると暮らしから何かが失われる種類の支出です。
もう一つ、単身世帯を見てください。夫婦の金額のちょうど半分にはなっていません。14万8445円は、夫婦の26万3979円の約56パーセントです。一人になっても家賃も光熱費も半分にはならないからで、この構造は後の章でもう一度出てきます。
この表の住居費は、あなたに当てはまるか
前に触れたとおり、この表の住居費は持ち家の世帯を多く含んだ結果の数字です。ここを自分の条件に置き換えることが、生活費の見積もりでいちばん大きな作業になります。
老後も賃貸で家賃7万円を払い続けるとしましょう。表の1万7739円との差は月5万2261円です。65歳から30年なら、差額だけで1880万円になります。家賃そのものの総額で見れば、7万円の30年分で2520万円。ここに更新料が加わります。
持ち家なら住居費がゼロになるわけでもありません。分譲マンションであれば管理費と修繕積立金が毎月かかり、これは年々上がっていくのが普通です。固定資産税も続きます。戸建てなら、外壁や屋根の修繕費を自分で積んでおく必要があります。
つまり、ここで確かめるべきはこういうことです。65歳の時点で、あなたは毎月いくらを住まいに払っているか。ローンは終わっているか。この一問の答えが、必要額を数百万円から二千万円以上動かします。
「最低限」と「ゆとり」の間にある15万円
もう一つ、別の角度の数字があります。
生命保険文化センターが3年ごとに行っている調査(民間調査)によると、夫婦2人で老後生活を送るうえで必要と考える最低日常生活費は月額平均23万9000円でした。そのうえで、ゆとりある老後生活を送るために最低日常生活費以外に必要と考える金額は平均15万2000円で、両者を合計したゆとりある老後生活費は平均39万1000円となっています(参照*5)。
ここで注意していただきたいのは、この数字が実際の支出額ではなく、人々がそう考えている金額だという点です。家計調査の26万円台は実績、こちらは意識です。性質の違うものを並べて「26万円では足りない」と結論づけるのは乱暴です。
それでも参考になるのは、同じ調査で最低日常生活費の回答分布を見ると、20万円以上25万円未満が26.7パーセントで最も多かったことです。多くの人が思い描く最低ラインは、実際の平均支出と大きくずれてはいません。差が出るのは「ゆとり」の部分で、旅行に行くのか、趣味を続けるのか、孫に何かしてやりたいのか。この上乗せをどれだけ見込むかは、統計ではなくあなたの希望が決めることです。
生活費は、年齢とともに減っていく
最後に、見積もりの精度を上げる事実を一つ。
同じ家計調査で、65歳以上の無職世帯(二人以上)の消費支出を世帯主の年齢別に見ると、65歳から69歳が29万6997円、70歳から74歳が28万5844円、75歳以上が24万8460円でした。年齢が上がるにつれて、支出は減っています。
行動範囲が狭まり、旅行や外食が減っていくためです。ですから「26万円が30年間ずっと続く」という前提は、やや厳しめの見積もりになります。一方で、保健医療費だけは逆の動きをします。そして介護が始まれば、この傾向は完全に覆ります。介護のお金はステップ4で扱います。
- ここで書き留めること
- あなたが老後に使う生活費は月いくらか。家計調査の金額を起点に、住居費を自分の条件に入れ替え、ゆとりの分を足し引きして決めてください。
6. ステップ3:何年分を見込むか
年金額と生活費が決まったら、次は掛け算する年数です。ここで多くの人がつまずきます。
平均寿命を使うと、計算が甘くなる
厚生労働省の令和7年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性81.35年、女性87.33年でした。
この数字を見て「男性なら65歳から16年分、女性なら22年分」と計算したくなりますが、それは正しくありません。平均寿命とは0歳時点の平均余命のことで、生まれてすぐに亡くなった人も含めた平均だからです。
65歳まで無事にたどり着いた人が、その後どれだけ生きるか。それを示すのが65歳時点の平均余命です。同じ生命表では、65歳の平均余命は男性19.68年、女性24.52年でした(参照*6)。
つまり、65歳の男性は平均して84歳過ぎまで、女性は89歳過ぎまで生きる計算になります。平均寿命で見積もると、男性で3年、女性で2年分ほど足りません。生活費26万円で計算すれば、3年分は900万円を超えます。
そして、半分の人はもっと長く生きる
ここからが本題です。
平均余命は平均値なので、当然ながら半数の人はそれより長く生きます。同じ生命表には、出生者のうちちょうど半数が生存すると期待される年数を示す「寿命中位数」という指標があり、令和7年は男性84.13年、女性90.17年でした。平均寿命より男性で2.78年、女性で2.84年長い数字です。
さらに具体的な数字もあります。90歳まで生存する人の割合は男性26.7パーセント、女性50.8パーセント。95歳まででは男性9.9パーセント、女性26.4パーセントです。
女性の2人に1人は90歳まで生き、4人に1人は95歳まで生きるということです。
この数字が意味するのは単純なことです。平均余命で資金計画を立てると、半分の確率で足りなくなります。そして資金が尽きるのは、働き直すことも、運用で取り返すことも難しくなった年齢です。
ですから年数は、平均より長めに置いてください。目安としては、男性なら90歳まで、女性なら95歳まで。65歳からそれぞれ25年、30年です。長生きしなかった場合は資産が残るだけで、困る人はいません。
夫婦は「二人の期間」と「一人の期間」を分ける
夫婦でお考えなら、もう一段階の作業が必要です。
多くの夫婦は同時に亡くなりません。どちらか一方が先に亡くなり、残された側に一人の期間が生まれます。男女の平均余命の差が約5年あり、夫が年上の夫婦が多いことを考えると、この期間は10年前後になることも珍しくありません。
問題は、この期間の収支が夫婦のときと大きく違うことです。
支出は半分になりません。先ほど見たとおり、夫婦のみ無職世帯の消費支出26万3979円に対し、単身無職世帯は14万8445円。約56パーセントです。家賃も光熱費も、一人になったからといって半額にはならないからです。
一方、収入のほうも減ります。まず、亡くなった方の老齢基礎年金はなくなります。満額なら月7万608円が消える計算です。
遺族厚生年金はどうか。これは、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が基本です。老齢厚生年金の全額ではなく、報酬比例部分だけが計算のもとになる点に注意してください。さらに、残された側が65歳以上で自分の老齢厚生年金を持っている場合は調整が入ります。まず自分の老齢厚生年金を全額受け取り、遺族厚生年金の額からその分を差し引いた残りが遺族厚生年金として支給される仕組みです。自分の老齢厚生年金が多い人ほど、上乗せされる額は小さくなります(参照*7)。
収入も支出も6割前後まで下がるため、不足額そのものは大きく変わらないこともあります。ただし、どちらの落ち方が大きいかは夫婦の働き方によって変わります。妻がずっと第3号被保険者だった世帯では遺族厚生年金がそのまま上乗せされるため、収入はある程度維持されます。逆に、妻自身が長く厚生年金に加入してきた共働き世帯では、遺族厚生年金から自分の老齢厚生年金が差し引かれるので、上乗せはわずかです。この場合、世帯の年金は半分近くまで落ち込み、支出の下がり方を上回ります。一人になってからの期間が厳しくなるのは、主にこちらのケースです。
- ここで書き留めること
- 二人でいる期間は何年か、一人になってからの期間は何年か。そして、それぞれの期間の不足額はいくらか。
7. ステップ4:毎月の生活費とは別に出ていくお金
ここまでで出した金額は、あくまで日々の暮らしの分です。金融審議会の報告書が但し書きで断っていたとおり、介護費用や住宅リフォーム費用といった特別な支出は、生活費の平均には入っていません。
ここでそれを足します。
介護にかかるお金
介護費用については、公的統計でまとまった額を示したものが乏しく、民間調査に頼ることになります。以下は生命保険文化センターが3年ごとに行っている調査の結果で、公的機関の統計ではない点をご承知おきください。
2024年度の調査によると、過去3年間に介護経験がある人が介護に要した費用は、住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的な費用の合計が平均47.2万円、月々の費用が平均9.0万円でした。介護を行った場所別に月額を見ると、在宅が平均5.3万円、施設が平均13.8万円です。この金額には公的介護保険サービスの自己負担分が含まれています。また、介護を行った期間は平均55.0カ月、4年7カ月でした。4年を超えて介護した人は約4割にのぼります(参照*8)。
この平均値をそのまま掛け合わせると、9.0万円の55カ月分に一時費用47.2万円を足して、約542万円。施設で介護を受ける想定なら、13.8万円の55カ月分に一時費用を足して約806万円になります。
そして夫婦の場合、この費用が2人分になる可能性があります。どちらも施設に入れば1600万円を超える計算です。
もちろん平均は平均で、介護が必要にならない人もいます。ただ、備えを考えるときは「かからなかったら残るだけ」という方向で置いておくのが安全です。夫婦なら1000万円、単身なら500万円あたりを一つの目安にしてください。
住まいにかかるお金
持ち家だから住居費はかからない、とはなりません。
分譲マンションなら、管理費と修繕積立金が生涯続きます。国土交通省のガイドライン(令和6年6月改定版)は、均等積立方式の説明として、築後30年間に必要な修繕工事費が戸当たり総額522万円かかるケースを挙げ、これを30年間均等に積み立てる場合の月額を1万4500円としています。同じガイドラインは、専有面積1平方メートルあたりの修繕積立金の目安も示しており、地上20階未満では建築延床面積5000平方メートル未満で月335円、5000から1万平方メートル未満で月252円、1万から2万平方メートル未満で月271円、2万平方メートル以上で月255円。地上20階以上では月338円が平均値です(参照*9)。
70平方メートルの住戸なら、月1万7600円から2万3400円あたりが目安ということになります。ご自身のマンションの積立金がこれを大きく下回っているなら、将来の値上げか一時金の徴収を見込んでおいたほうがいいでしょう。
戸建てなら、この積立を自分でやることになります。外壁の塗り替え、屋根、給湯器、水回り。誰も請求してこない分、後回しになりやすい支出です。
賃貸を続ける場合の生涯家賃については、ステップ2で扱ったとおりです。月7万円なら30年で2520万円。ここに更新料が加わります。
医療にかかるお金
医療費は、実は二重に数えやすい項目です。
日常的な通院や薬代は、すでに生活費の中に入っています。家計調査の保健医療費が夫婦で月1万7941円、単身で月8388円でした。ですから一時費用として別に見るべきなのは、入院や手術で一度に大きな支払いが発生する場面です。
ここで働くのが高額療養費制度です。1カ月に支払う医療費の自己負担に上限が設けられ、それを超えた分は払い戻されます。70歳以上には、外来の受診費用について別途上限を設ける外来特例もあります(参照*10)。
ただし、この制度は見直しの途中にあります。厚生労働省の資料によると、2026年8月から月額の自己負担限度額が引き上げられるとともに、年単位の上限額である「年間上限」が新設されました。さらに2027年8月には、所得区分を細分化する第2段階の見直しが予定されています。70歳以上の外来特例も見直しの対象です(参照*11)。
一方で、長期にわたって治療を受ける方への配慮も同時に行われています。直近12カ月に3回以上上限額に達した場合に適用される多数回該当の金額は、現行水準が維持されました。新設された年間上限は、月ごとの上限には届かないものの1年を通して負担が重い方を対象にした仕組みです。
ご自身の区分の上限額は、加入している健康保険で最新のものを確認してください。
また、差額ベッド代、入院中の食事代、先進医療にかかる費用は高額療養費の対象外です。入院が長引けば、この部分が積み上がります。
残りの項目
葬儀費用、住まいの片づけ、子どもへの援助。このあたりは信頼できる公的統計が見当たらないため、この記事では具体的な金額を示しません。ご自身で「これくらいは残したい」という額を決めて、必要額に足してください。
- ここで書き留めること
- 介護、住まい、医療の一時費用を合計していくらか。
8. ステップ5:すでにあるお金を差し引く
必要額から引けるものを確認します。退職金と、今ある貯蓄です。
退職金は「いくら」より先に「あるかどうか」
退職金は必ずもらえるものではありません。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によると、退職給付制度がある企業の割合は74.9パーセントでした。平成30年調査の80.5パーセントから下がっています。4社に1社には制度がないということです。この割合は企業規模で大きく違い、従業員1000人以上では90.1パーセントですが、30人から99人では70.1パーセント。産業別では、宿泊業・飲食サービス業が42.2パーセント、サービス業(他に分類されないもの)が54.4パーセントと、半数前後にとどまる分野もあります(参照*12)。
自営業やフリーランスの方には、当然ながら退職金はありません。ステップ1で見た年金額の低さと合わせると、この働き方の人が自分で準備すべき金額は、会社員よりかなり大きくなります。
金額の目安
制度がある場合、いくらになるか。
同じ調査で、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者1人あたりの平均退職給付額は、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)が1896万円、高校卒(管理・事務・技術職)が1682万円、高校卒(現業職)が1183万円でした。
勤続35年以上に絞ると、大学・大学院卒は2037万円になります。ただし平成30年調査では2173万円だったので、5年間で136万円下がっている計算です。
勤続年数の影響も大きく、大学・大学院卒でも勤続20年から24年では1021万円です。転職を重ねてきた方は、勤続年数がリセットされている分だけ少なくなります。
これらはあくまで統計上の平均です。ご自身の金額は就業規則か人事部門で確認できます。金融審議会の報告書も、退職金の給付額を把握した時期について、受け取るまで知らなかったと答えた人が約3割いたことを指摘していました。早めに確認しておいて損はありません。
今ある貯蓄を、正しく見る
もう一つ引けるのが、現在の貯蓄です。
総務省の家計調査によると、2025年の二人以上世帯の1世帯当たり貯蓄現在高は平均2059万円でした。7年連続の増加で、比較可能な2002年以降で最多です(参照*13)。
ただ、この数字を見て「うちは平均より少ない」と落ち込む必要はありません。貯蓄の分布は偏っているからです。同じ調査で、平均値の2059万円を下回る世帯が全体の66.1パーセントを占めており、貯蓄を保有する世帯だけで算出した中央値は1264万円でした。
3分の2の世帯が平均値に届いていません。平均値は一部の高額保有世帯に引き上げられるので、実感に近いのは中央値のほうです。
そして、もう一つ気になる動きがあります。世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高は2494万円で、前年に比べ66万円、2.6パーセントの減少となりました。6年ぶりの減少です。
社会全体の貯蓄が過去最高を更新するなかで、高齢無職世帯の貯蓄だけが減っている。取り崩しが実際に始まっているということです。
引くときの注意
退職金と貯蓄を足して、必要額から引いてください。ただし2点だけ。
一つは、退職金の全額を老後資金に回せるとは限らないこと。住宅ローンの残債を一括返済する予定があるなら、その分は差し引いて考えてください。
もう一つは、手元に残しておくお金を除くこと。病気や家電の故障など、すぐに使えるお金がないと困る場面はあります。生活費の半年分程度は、老後資金の計算から外して確保しておいてください。
- ここで書き留めること
- 退職金の見込額と、現在の貯蓄額。そこから、ローン返済分と手元に残す分を引いた金額。
これで5つの数字がすべて揃いました。次の章で、実際に計算します。
9. 3つのケースで実際に計算してみる
ここまでの5つの数字を使って、通しで計算します。ご自身に近いケースの数字の動かし方を見てください。
ケース1:会社員の夫婦、ローンを終えた持ち家
夫は厚生年金中心で40年近く働き、妻はほぼ第3号被保険者。二人とも65歳から年金を受け取ります。
ステップ1(年金) 夫17万7000円、妻7万8000円で、世帯の年金は月25万5000円(参照*3)。ここから税と社会保険料が月3万3000円ほど引かれ、手取りは22万2000円です。
ステップ2(生活費) 持ち家なので、家計調査の26万4000円をそのまま使います。
毎月の不足は、26万4000円から22万2000円を引いて4万2000円です。
ステップ3(年数) 二人でいる期間を20年、その後に妻が一人で暮らす期間を10年と置きます。
一人期間の収支も出しておきます。妻の年金7万8000円に、夫の報酬比例部分10万7000円をもとにした遺族厚生年金約7万1000円が加わり、月14万9000円。手取り13万6000円に対し、単身の生活費14万8000円なので、不足は1万2000円です。
- 二人期間:4万2000円 × 12 × 20年 = 1008万円
- 一人期間:1万2000円 × 12 × 10年 = 144万円
- 合計:1152万円
ステップ4(一時費用) 介護を夫婦で1000万円、住まいの大規模修繕や一時金で200万円、その他で100万円。合計1300万円と置きます。
必要額:1152万円 + 1300万円 = 2452万円
ステップ5(引けるもの) 退職金1896万円、貯蓄1264万円。合計3160万円から、手元に残す160万円を除いて3000万円。
結論:3000万円 − 2452万円 = 548万円の余裕
このケースは足ります。ただし余裕は大きくありません。夫婦とも施設で介護を受ける想定に変えると、介護費用は1600万円になり、必要額は3052万円。この一点だけで足りなくなります。
ケース2:会社員として働いてきた単身女性、賃貸を続ける
厚生年金中心で30年以上働き、持ち家はなく、老後も月7万円の賃貸に住み続けます。
ステップ1(年金) 13万5000円。手取りは12万2000円です。
ステップ2(生活費) 家計調査の単身消費支出14万8000円から住居費1万1000円を引き、家賃7万円を足して、月20万7000円。
毎月の不足は8万5000円。ケース1の倍です。住居費の置き換えだけで、ここまで変わります。
ステップ3(年数) 女性なので30年。8万5000円 × 12 × 30年 = 3060万円。
ステップ4(一時費用) 介護500万円、その他100万円で600万円。
必要額:3060万円 + 600万円 = 3660万円
ステップ5(引けるもの) 退職金1000万円、貯蓄1264万円。手元分を除いて約2100万円。
結論:3660万円 − 2100万円 = 1560万円の不足
賃貸を続ける前提が、必要額をここまで押し上げます。加えて、高齢になってからの住み替えでは、保証人や入居審査で苦労する場面もあります。金額以外の備えも要る選択です。
ケース3:自営業の夫婦、持ち家
夫婦とも国民年金が中心。退職金はありません。
ステップ1(年金) 夫6万4000円、妻6万2000円で、世帯の年金は月12万5000円。国民健康保険料と介護保険料を月2万円ほどと見て、手取りは10万5000円です。
ステップ2(生活費) 持ち家なので26万4000円。
毎月の不足は15万9000円。ケース1の4倍近くになります。
ステップ3(年数) ここでは簡略化して30年一括で計算します。15万9000円 × 12 × 30年 = 5724万円。
ステップ4(一時費用) ケース1と同じく1300万円。
必要額:5724万円 + 1300万円 = 7024万円
ステップ5(引けるもの) 退職金はゼロ。貯蓄1500万円とすると、手元分を除いて約1340万円。
結論:7024万円 − 1340万円 = 約5680万円の不足
この数字を見て手が止まったかもしれません。ですが、これは絶望を示す数字ではなく、打ち手の大きさを示す数字です。
自営業には定年がありません。65歳以降も月10万円の収入を10年続けるだけで1200万円になります。国民年金の任意加入や付加年金で受給額を増やす道もあり、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済といった、自営業者だから使える制度もそろっています。会社員より不利な条件が多い代わりに、打てる手も多いのがこの働き方です。
3つを並べて見ると
| ケース1 | ケース2 | ケース3 | |
|---|---|---|---|
| 世帯の年金(手取り) | 22万2000円 | 12万2000円 | 10万5000円 |
| 生活費 | 26万4000円 | 20万7000円 | 26万4000円 |
| 毎月の不足 | 4万2000円 | 8万5000円 | 15万9000円 |
| 必要額 | 2452万円 | 3660万円 | 7024万円 |
| 引けるもの | 3000万円 | 2100万円 | 1340万円 |
| 過不足 | 548万円の余裕 | 1560万円の不足 | 5680万円の不足 |
※上記はモデルケースであり、実際の金額は個々の状況によって異なります。
同じ「老後資金の必要額」でも、2452万円から7024万円まで開きます。2000万円という一つの数字が答えにならない理由は、この表に尽きています。
そして、この3つのどれにも当てはまらないのがあなたの数字です。ご自身の5つの数字で、同じ計算をしてみてください。
10. 不足分をどう埋めるか
不足額が出たなら、ここからが本題です。埋める手段は5つあります。
1. 働く期間を延ばす
最も確実で、効果も大きい手段です。
65歳から月10万円を5年間稼げば600万円。しかもこの間は貯蓄を取り崩さずに済むので、効果は二重になります。ケース1の夫婦なら、不足額4万2000円の5年分、252万円の取り崩しを回避できる計算です。
ただし、これを唯一の柱にはしないでください。働けるかどうかは健康次第で、こちらの都合では決まりません。
2. 年金の受け取りを遅らせる
繰下げ受給は、1か月遅らせるごとに年金額が0.7パーセント増える制度です。70歳まで繰り下げれば42.0パーセント、75歳まで繰り下げれば84.0パーセント増額され、増えた額は生涯続きます。使い勝手のいい点として、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることもできます(参照*14)。
ケース1の夫の年金17万7000円を70歳まで繰り下げれば、25万1000円になります。世帯では月7万4000円の増加で、これが死ぬまで続きます。
注意点は2つ。増えた年金には税と社会保険料がかかるため、手取りの増加率は額面より小さくなります。そして、繰り下げている間の生活費は自分で用意しなければなりません。繰下げは、働く期間の延長か、十分な手元資金とセットで初めて成立する手段です。
3. 支出を下げる
月1万円下げれば、30年で360万円。必要額そのものが小さくなるので、効果は確実です。
効くのは住居費です。食費を切り詰める努力より、住まいをどうするかの判断のほうが、はるかに大きな金額を動かします。
4. 積み立てて貯める
NISAやiDeCoを使った積立投資です。現役期間が長いほど効果が大きく、30代・40代の方にとっては中心的な手段になります。
NISAは、年間の投資枠がつみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の合計360万円、生涯を通じて非課税で投資できる非課税保有限度額が1800万円(うち成長投資枠は1200万円まで)に設定されています(参照*15)。
iDeCoは、この記事を読んでいる時期によっては制度が変わっている可能性があります。2026年12月1日施行で、拠出限度額と加入可能年齢が引き上げられるためです。
拠出限度額は、自営業者などの第1号被保険者が月6万8000円から7万5000円へ、企業年金のない会社員が月2万3000円から6万2000円へと引き上げられます。企業年金がある会社員も、企業年金と合わせて月6万2000円が上限となります。加入可能年齢は、70歳になるまで拠出できるように拡大されます(参照*16)。
企業年金のない会社員の枠が2.7倍になる計算で、決して小さな変更ではありません。掛金は全額が所得控除の対象になるので、拠出額を増やせばその分の節税効果も大きくなります。
ただし、この手段には構造的な限界があります。貯めた資産は、取り崩せば減るということです。
そして老後資金の最大の不確実性は、何歳まで生きるか分からないことでした。ステップ3で見たとおり、女性の2人に1人は90歳まで生きます。終わりが見えないものに対して、有限の資産を取り崩していく。この形である限り、いくら貯めても「使い切ってしまうかもしれない」という不安は残ります。
5. 毎月入ってくる収入源をつくる
そこで、必要額の計算式をもう一度見てください。
必要額 =(毎月の不足額 × 12 × 年数) + 一時費用 − すでにあるお金
年数を掛けているのは、不足が毎月続くからです。ということは、毎月の収入そのものが増えれば、掛け算の中身が小さくなります。
ケース1の夫婦は毎月4万2000円が不足していました。仮に家賃収入の手残りが月4万2000円あれば、この不足はゼロになります。1152万円という計算自体が消えるのです。
貯めたお金は使えば減りますが、毎月入ってくる収入は減りません。この違いは、金額以上に大きいと考えています。減っていく資産を眺めながら暮らすのと、毎月入ってくるお金の範囲で暮らすのとでは、同じ生活水準でも安心感がまったく違うからです。
実際に、金融商品での資産形成を続けながら、それでは不安が消えないと感じた方がいます。
東京都在住のD・K様(男性・46歳・当時)は、金融機関に20年以上勤務してきた方です。20代の頃から老後の生活費に漠然とした不安があり、株式投資、続いて投資信託と資産運用を試してきました。インデックス型の低コストファンドでは成功と呼べる結果も出したそうです。
それでも不安が消えなかった理由を、D・K様はこう振り返っています。毎月の給与の範囲内での資産形成にとどまっていたため、そして個人資産が金融商品に偏っていたためだ、と。このまま続けても十分な老後資金は準備できないと感じ、金融商品と並行して不動産投資を行うことでリスクを分散させた、という経緯です。現在は繰上返済を進め、60歳までに全物件の完済を目指しておられます。
(出典:日本財託「金融商品だけでは老後の不安は消えない」)
東京23区の中古ワンルームマンションであれば、頭金と購入時の諸経費を合わせて60万円から100万円程度で始めることができます。まとまった資金を用意してから、という手段ではありません。
もちろん、良いことばかりではありません。空室になれば家賃は入らず、ローンの返済だけが残ります。家賃は下がることもあり、設備の交換費用もかかります。こうしたリスクの具体的な中身については、不動産投資の8つのリスクで詳しく整理していますので、判断の前に必ず目を通してください。
手段を選ぶときに、外してはいけない基準
最後に一つだけ。
ここまで計算してきて分かるとおり、老後資金の問題は「毎月の不足が20年、30年と続く」という形をしています。長く続く問題です。
ですから、これを一度きりの利益で解決しようとすると、必ず無理が出ます。値上がりしたところで売って利益を得る、という発想は、いつ売れるか、いくらで売れるかが自分では決められません。老後の生活費という、毎月必ず出ていくお金の裏づけにするには不安定すぎます。
節税を目的に据えるのも同じです。帳簿上の赤字で税金を減らす仕組みは、裏を返せば毎月の持ち出しが発生しているということです。手元のお金が毎月減っていく状態は、老後資金を作る目的とは逆を向いています。
選ぶ基準はシンプルです。毎月、確実に、長く入ってくるか。この一点で判断してください。
11. 年代別に、今日からできること
同じ計算をしても、年代によって打てる手は変わります。最後に、あなたの年代で今日からできることを整理します。
30代・40代:数字が一番大きく見えて、実は一番有利な時期
この世代の方が計算すると、必要額は大きく出ます。残りの人生が長い分、年数を掛ける回数が多いからです。
ただし、同じ理由で使える時間も最も長くなります。金融審議会の報告書も、現役期を「長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期」と位置づけています(参照*2)。
今日できることは3つです。
一つ目は、ねんきん定期便で年金加入期間を確認すること。老齢基礎年金を受け取るには、保険料の納付期間や免除期間などの合計が120カ月以上必要です。転職の合間に未納期間があると、思わぬ穴が空いていることがあります。
二つ目は、住まいの方針を決めること。ケース1とケース2の差が示したとおり、老後も家賃を払い続けるかどうかが必要額を最も大きく動かします。今すぐ家を買えという話ではなく、65歳時点でどこにどう住んでいるつもりなのかを、一度考えておくということです。
三つ目は、積立を始めること。金額は小さくて構いません。この世代の強みは金額ではなく期間です。
そして、収入源をつくる選択肢を検討するなら、この時期が最も条件がよくなります。ローンを長く組めて、勤続年数による信用力も使えるからです。
50代:数字が確定し、まだ間に合う時期
50歳を境に、ねんきん定期便の記載が見込額に変わります。実際の受給額に近い数字が手に入るので、この記事の計算精度が一気に上がる時期です。
あわせて確認すべきは3つ。退職金の見込額、住宅ローンの完済時期、そして親の介護が自分の家計に及ぶ可能性です。
ここで不足が判明しても、手はあります。就労を65歳以降に延ばし、繰下げ受給を組み合わせるだけで、かなりの部分が埋まります。60歳から75歳までは15年あり、これは短い時間ではありません。
加えて、この世代には制度面の追い風もあります。2026年12月1日から、iDeCoは70歳になるまで掛金を拠出できるようになります。厚生労働省の資料には、50歳の方がiDeCoを始めても最大20年間の掛金の拠出が可能になる、と明記されています(参照*16)。
50代からでは遅いと考えて何もしなかった方にとって、20年という期間はもう一度使える時間です。
逆に、この時期に避けたいことがあります。不足額に驚いて、取り返そうと大きなリスクを取ることです。退職金をまとめて運用に回す行動は特に危険で、報告書も、運用に失敗した場合に就労や追加の投資で補填しようとしても、加齢とともに残された期間は短くなると指摘しています。50代で失った資金を取り戻す時間は、思っているほど残っていません。
60代以降:「いくら貯めたか」より「どう取り崩すか」
65歳を迎えると、問題の性質が変わります。貯める段階から、使う段階に入るからです。
同じ2000万円でも、取り崩し方で持ち年数は変わります。毎月決まった額を取り崩す方法は計画が立てやすい一方、資産が減っても取り崩し額は減らないので、尽きるときは一気に尽きます。残高の一定割合を取り崩す方法なら、資産が減るにつれて取り崩し額も減るため、理屈のうえでは尽きません。ただし、生活費が年々細っていくことを受け入れる必要があります。
どちらを選ぶにせよ、この段階で効く手は限られます。だからこそ、取り崩しに入る前に、毎月入ってくる収入をどれだけ用意できているかが効いてきます。
ステップ5で見たとおり、この世代の貯蓄は6年ぶりに減少に転じています。取り崩しはすでに始まっています。
もう一つ、お金の置き場所の整理もこの時期の仕事です。口座が分散していると、判断能力が落ちたときに家族が把握できなくなります。取引をまとめ、どこに何があるかを紙一枚にしておく。地味ですが、資産を守るうえでは運用と同じくらい効きます。
何歳からでも
最後に、一つだけ申し上げます。
埼玉県在住のT・M様(75歳・掲載時)は、73歳の時点で不動産投資に関心を持ち、そこから1年ほどをかけて書籍や雑誌を読み、複数の会社のセミナーに足を運んで学ばれました。株や投資信託の経験はなく、高齢の自分が始めるにはリスクが大きすぎると感じていたそうです。それでも納得できるまで学び、平成28年に2戸を購入されています。
現在は家賃収入で趣味の旅行を楽しんだり、友人と食事に出かけたりと、ささやかな贅沢を楽しんでいるとのことです。
(出典:日本財託「73歳から足掛け1年、初めての不動産投資」)
ここまで計算してきた数字が思わしくなかったとしても、それは何もしなかった場合の数字にすぎません。数字が出た時点で、あなたはもう次の手を選べる位置にいます。
12. よくある質問
- 独身の場合、必要額はいくらになりますか
- 夫婦の半分にはなりません。ケース2で計算したとおり、単身のほうが不足額が大きくなることもあります。
理由は2つあります。一つは、生活費が半分にならないこと。家計調査では夫婦のみ無職世帯の消費支出26万3979円に対し、単身無職世帯は14万8445円で、約56パーセントです。家賃も光熱費も、一人だからといって半額にはなりません。もう一つは、年金が一人分しかないこと。夫婦なら二人分の老齢基礎年金が入りますが、単身は一人分です。収入は半分、支出は56パーセント。この差が不足額に出ます。
加えて、介護が必要になったときに頼れる配偶者がいない点も考慮してください。同居家族による介護が期待できない分、施設や外部サービスの利用が増える可能性があります。介護費用は在宅で月5.3万円、施設で月13.8万円と差が大きいので、ここは多めに見積もっておくほうが安全です。 - 退職金が出ない働き方をしています。どう考えればよいですか
- 引ける金額がない分、他の4つの数字で調整することになります。
まず確認していただきたいのは、自分が本当に退職金のない立場なのかという点です。退職給付制度がある企業の割合は74.9パーセントで、4社に1社にはありません。転職が多い方は、勤続年数が短いために金額が小さくなっているだけの場合もあります。就業規則を一度確認してください。
自営業やフリーランスの方は、退職金がないことに加えて年金も基礎年金が中心になります。ケース3で計算したとおり、必要額は会社員世帯の3倍近くになることもあります。
ただし、打てる手も多い働き方です。定年がないこと、そして国民年金基金や小規模企業共済など自営業者だから使える制度があること。具体的な内容はケース3に書きましたので、そちらをご覧ください。 - 足りなかった場合、生活保護に頼ることはできますか
- 制度としては可能です。ただし、その前提を正確に知っておいてください。
厚生労働省の説明によると、生活保護は資産や能力などあらゆるものを活用することを前提として行われます。ただちに活用できる不動産、自動車、預貯金等の資産がないこと、年金や手当等の社会保障給付を活用しても必要な生活費を得られないことなどが条件です(参照*17)。
支給されるのは、最低生活費から年金などの収入を差し引いた差額です。年金を受け取っていても、その額が最低生活費に届かなければ差額が支給されます。
つまり、生活保護は貯蓄や資産を使い切った後に初めて適用される制度です。「足りなくなったら生活保護がある」という考え方は、「持っているものを手放した後なら」という条件がつきます。持ち家に住み続けたい、子どもに何か残したいという希望があるなら、その希望とは両立しません。
セーフティネットは確かに存在します。ただ、それを前提に計画を立てるのと、備えたうえで最後の手段として知っておくのとでは、意味がまったく違います。 - 物価が上がり続けたら、必要額はどう変わりますか
- 必要額は増えます。そして、年金がその増加分を完全には埋めません。
令和8年度の年金額改定を見てください。改定の基礎となった令和7年の物価変動率は3.2パーセントでしたが、実際の改定率は国民年金(基礎年金)が1.9パーセント、厚生年金(報酬比例部分)が2.0パーセントでした(参照*3)。
物価が3.2パーセント上がったのに、年金は2パーセント前後しか上がっていません。年金額は増えているのに、買えるものは減っているということです。
これはマクロ経済スライドという仕組みによるもので、年金制度を将来にわたって維持するために、給付水準を意図的に抑える調整が行われています。制度の持続性を確保するための仕組みなので、当面続くと考えておくのが現実的です。
この記事の計算は現在の物価水準で行っています。物価上昇が続けば、必要額は計算した金額より大きくなります。だからこそ、定額の貯蓄だけで備えるより、物価とともに動く収入を持っておく意味があります。家賃も、物価や賃金が上がれば長期的には動きます。 - 準備を始めるのに遅すぎる年齢はありますか
- ありません。ただし、年齢によって効く手段は変わります。
30代・40代なら、時間を使う手段が最も効きます。少額の積立でも、20年30年の複利が働きます。
50代なら、就労の延長と繰下げ受給の組み合わせが効きます。60歳から75歳まで15年あり、繰下げは75歳で84.0パーセントの増額になります。
60代以降でも、取り崩し方を工夫すれば資産の持ち年数は変わります。日本財託のオーナー様には、73歳から1年かけて学び、初めての不動産投資に踏み切った方もいらっしゃいます。
避けるべきなのは、年齢を理由に何もしないことです。そしてもう一つ、遅れを取り戻そうとして、自分の年齢に見合わないリスクを取ることも避けてください。
13. まとめ
長い計算にお付き合いいただき、ありがとうございました。
この記事でお伝えしたかったことは、一つだけです。老後資金の必要額に、誰にでも当てはまる正解はありません。2000万円という数字も、この記事で計算した2452万円も、あなたの金額ではないからです。
代わりに、あなた自身の金額を出す方法をお渡ししました。
必要額 =(毎月の不足額 × 12 × 年数) + 一時費用 − すでにあるお金
年金額を確かめ、生活費を置き、年数を決め、一時費用を足し、今あるものを引く。この5つを埋めれば、あなたの数字が出ます。同じ計算をした3つのケースで、答えは2452万円から7024万円まで開きました。前提が違えば、金額はこれだけ動きます。
そして、出てきた数字が大きかったとしても、それは今のままなら、という前提の数字にすぎません。働く期間を延ばす、年金を繰り下げる、支出を下げる、積み立てる、毎月入ってくる収入をつくる。手段は5つあり、どれか一つを選ぶ必要もありません。
一つだけ、覚えておいていただきたいことがあります。老後資金の問題は、20年30年と毎月続く問題だということです。長く続く問題には、長く続く答えが要ります。一度きりの利益や、帳簿の上だけの節税では、毎月の不足は埋まりません。
計算して、数字が見えたなら、あなたはもう動ける位置にいます。今日、ねんきん定期便を探すところから始めてください。
14. 出典一覧
- [*1] 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」
- [*2] 金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)
- [*3] 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」(令和8年1月23日)
- [*4] 日本年金機構「年金Q&A(これまでの加入実績に応じた年金額について)」
- [*5] 生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」
- [*6] 厚生労働省「令和7(2025)年簡易生命表の概況」(令和8年7月24日公表)
- [*7] 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第13 遺族年金」
- [*8] 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
- [*9] 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定・令和6年6月改定版)
- [*10] 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- [*11] 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(令和7年12月25日 第209回社会保障審議会医療保険部会)
- [*12] 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」
- [*13] 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果(二人以上の世帯)」
- [*14] 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
- [*15] 金融庁「NISAを知る(NISA特設ウェブサイト)」
- [*16] 厚生労働省「私的年金制度、iDeCoの改正のポイント」
- [*17] 厚生労働省「生活保護制度」


