不動産投資
掲載日2026.10.26
不動産投資の経費はどこまで?計上基準と収支での見極め方
この記事のまとめ
不動産投資の経費は、家賃収入を得るために必要な支出かどうかで判断します。帳簿上の費用と実際に出ていく現金は一致しないため、双方から確認することが見極めの軸です。ここでは重要な4つのポイントを整理します。
- 購入時には登記費用、不動産取得税、固定資産税・都市計画税の精算金、火災保険料、融資事務手数料などの諸経費がかかり、これらは基本的にローンで賄えず現金で用意します。
- 法人税では、減価償却資産に資本的支出を行った場合、法人税法施行令第55条第4項の規定が適用される場合を除き、その金額を取得価額として新たな減価償却資産を取得したものとみなし償却します。
- 減価償却は現金支出を伴わない帳簿上の費用であり、マンションのうち対象となるのは建物部分のみです。売却時には累計額を取得価額から差し引いて利益を計算します。
- 自己資金を抑えた購入では収支がマイナスになりやすい一方、返済によって元本は着実に減ります。個別の税務判断は税務署や税理士へ確認してください。
1. 経費計上の基準と範囲
必要経費の考え方
不動産投資における経費は、賃貸経営を継続するための支出かどうかを基準に判断します。
判断の軸となるのは、その支出が家賃収入を得るために使われたかという一点です。部屋を貸し出し、入居者に住んでいただくための費用は、賃貸経営の必要経費として扱われます。
一方、オーナー自身の生活費など賃貸経営と関係のない私的な支出は、同じ財布から出ていても明確に区別されます。実際の支出では、双方が混ざるケースもあります。
個別の支出を経費計上できるかどうかは税務上の判断を要するため、最終的には税務署や税理士に相談して確認しましょう。
経費になりやすい費用
物件を購入する段階では、本体価格とは別に登記費用、不動産取得税、火災保険料、融資事務手数料などの諸費用が発生します。固定資産税・都市計画税の精算金は、購入時の資金計画に含めますが、買主側では原則として不動産の取得価額に含めて扱います(参照*6)。購入時の支出がすべて、その年の必要経費になるわけではありません。
この諸経費を軽く見てしまい、資金計画が崩れる方が少なくありません。目安としては、頭金として最低10万円、これに登記費用やローン事務手数料、火災保険料などが物件価格に応じて50万〜70万円程度かかります。合わせて100万円ほどの現金を用意できれば、東京の中古ワンルームであれば十分にスタートラインに立てます。
保有期間中には、賃貸管理会社へ支払う管理委託料などが発生します。空室期間を短くするには、仲介会社への情報共有、内見対応、周辺相場に合った募集家賃の設定なども関係します(参照*1)。
経費にできない支出
現金が出ていく支出のすべてが、そのまま帳簿上の費用になるわけではありません。
借入金の返済のうち元本部分は、債務残高を減らすための支払いであって必要経費には該当しません。オーナー個人の私的な生活費も、賃貸経営に係る支出とは明確に切り離して管理します。
支出の中には、当期の費用ではなく資産として扱われるものも存在します。国税庁は、減価償却資産に対して資本的支出を行った場合、法人税法施行令第55条第4項の規定が適用される場合を除き、その支出額を取得価額として、新たな減価償却資産を取得したものとして償却を行うと説明しています(参照*2)。
また、印紙税の課税対象となる文書もあります。国税庁の印紙税額一覧では、売上代金に係る金銭等の受取書の例として、不動産の賃貸料の受取書が挙げられています(参照*3)。
2. 修繕費と資本的支出の線引き
同じ修繕工事であっても、その年の費用として一括計上するものと、資産計上して徐々に償却していくものに分かれます。
資産として扱われる支出が「資本的支出」です。国税庁は法人税の解説において、減価償却資産に資本的支出を行った場合、その支出額を取得価額とし、既存の資産本体と種類・耐用年数を同じくする新たな減価償却資産を取得したものとして償却を行うと示しています(参照*2)。
既存の資産本体の扱いについても、同様の解説で言及されています。資本的支出の対象となった旧減価償却資産は、支出後も従来採用してきた方法で継続して償却を行います(参照*2)。
つまり、資本的支出の分は別個の資産として償却計算が進み、本体の償却も従来どおり並行して進みます。工事年に一括費用化できない分、帳簿上の経費計上は複数年に分散される形です(参照*2)。
3. 減価償却と節税効果の実際
減価償却の仕組み
減価償却費は、実際の現金の流出を伴わない帳簿上の経費です。
これを計上すると帳簿上の不動産所得が赤字になる場合があります。マンションのうち減価償却できる対象は建物部分のみで、土地は対象外です。建物部分はさらに本体と設備に分かれており、節税効果の中心となるのは、耐用年数が短く早期に償却が進む建物設備の部分です(参照*1)。
なお、少額資産については特例の基準額が見直されています。令和8年度税制改正大綱では、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例の上限額を、現行の30万円未満から40万円未満へ引き上げる方針が盛り込まれました。
所得税についても同様の措置が示されています(参照*4)。所得税では、一定の要件を満たす青色申告者が令和8年4月1日以後に取得した10万円以上40万円未満の資産について、合計300万円まで必要経費に算入できます(参照*5)。
節税効果が縮小する理由
減価償却によって得られる節税効果は、年数の経過とともにいずれ薄れていく仕組みになっています。
中古資産の耐用年数は、一定の条件の下で法定耐用年数ではなく見積耐用年数を用いるか、簡便法で算定できます。設備の償却期間が終了すれば、その資産に係る減価償却費は計上されなくなります。設備の償却が終わると、それまで大きかった節税メリットは大幅に減少します。加えて、将来物件を売却する際には、過去に計上した減価償却費の累計額を取得価額から差し引いて譲渡益を算出するため、節税は税金を後回しにしている側面にすぎないとされています(参照*1)。
こうした構造を踏まえると、節税だけを主目的として不動産投資を始める手法には注意が必要です。節税効果はあくまで一時的な恩恵にすぎず、不動産投資本来の収益確保という目的とは切り離して考えるべきだからです(参照*1)。
不動産投資では、節税効果だけを基準にせず、長期にわたって安定した家賃収入を得られるかを含めて判断することが大切です(参照*1)。
4. 収支での見極め方
帳簿上の損益と手元資金の差
帳簿に記録される損益と、手元に残る現金収支の動きは必ずしも一致しません。
差異が生じる要因の1つが減価償却費です。実際の現金流出を伴わない費用を計上するため、不動産所得の計算上は赤字でも、同額の現金が出ていくとは限りません。建物は建物本体と附属設備などに分けて減価償却し、土地は減価償却の対象外です(参照*1)。
もう1つの要因はローンの元本返済です。毎月の返済によって現金は支出されますが、その支出によって借入残高が減少し、物件という資産に対する自分の持ち分が増えていきます(参照*1)。経費の計上額だけにとらわれず、帳簿上の損益と実際の資金収支の双方を切り分けて把握することが、状況を正しく見極める基本です。
収支の改善と運用の視点
毎月の現金収支が一時的にマイナスになったとしても、それだけで投資の失敗を意味するわけではありません。
自己資金を抑えて借入額を大きくすると、当初は返済額が家賃収入を上回り、月々の収支がマイナスになる場合があります。収支を判断する際は、空室や修繕なども見込んだ資金計画が必要です。
現金の収支がマイナスであっても、返済を通じて元本は着実に減少し、資産形成自体は確実に進んでいるからです。重要なのは、マイナス収支を無策のまま放置しないことです(参照*1)。
繰り上げ返済を行うと、金融機関や返済方法の条件に応じて毎月の返済額を減らすか、返済期間を短くできます。手元資金や将来の修繕費を確保したうえで検討しましょう。
5. おわりに
不動産投資の経費は、安定した家賃収入を得るために不可欠な支出かどうかを軸に判断します。購入時の登記費用や不動産取得税、火災保険料などの諸経費は、現金で準備するのが基本です。資本的支出は、所得税でも原則として資産計上し、減価償却を通じて各年分の必要経費に算入します。
減価償却費は現金流出を伴わない会計上の費用であり、マンションでは建物部分が対象です。帳簿上の損益と手元の資金収支は一致しないため、双方を切り分けて把握し、個別の税務処理は税務署や税理士の助言を得ながら進めましょう。


