不動産投資
掲載日2026.11.04
不動産投資の法人化とは?始める前に知っておきたい判断基準と、個人のままがよいケース
不動産投資の法人化を考えるとき、何を基準に判断すればよいのか。税金のかかり方の違いという基本から、これから始める段階、ローン返済中、繰上げ返済で黒字化した段階まで、今のあなたに法人化が必要かを判断できるよう解説します。
「最初から法人で買ったほうがいいですよ」と勧められたのかもしれません。あるいは、確定申告で去年より納める税金が増えていることに気づいたのかもしれません。
自分は法人化したほうがいいのか、今のままでいいのか。
先に結論をお伝えすると、不動産投資の法人化は、誰もが検討すべきものではありません。物件を買う前でも、ローンを返済中でも、法人化が役に立つかどうかは今の収入と物件の状況で変わります。税金の安さだけで決めると、個人のままなら受けられた有利な扱いを手放し、かえって手元に残るお金が減ることもあります。
この記事では、冒頭の早見表であなたの今の段階を確認したうえで、法人化で何が変わるのか、段階ごとに何を基準に判断すればよいのかをお伝えします。
1. 早見表:あなたの今の段階・規模と、法人化の検討度合い
法人化を考えるときは、「今どの段階にいるか」と「どのくらいの規模で持っているか」の2つの軸で確認します。
表1 段階から見た判断
| 今のあなた | 法人化の検討度合い | 判断のポイント | 詳しくは |
|---|---|---|---|
| これから1戸目を買う | 急がなくてよい | 法人で買うかどうかより、無理のない資金計画と物件選びが先。法人には設立費用と毎年の固定費がかかり、融資の条件も変わる | 段階1 |
| ローン返済中で、不動産所得が赤字または黒字がわずか | 個人のままが有利なことが多い | 個人なら赤字を給与と相殺し、所得税の還付を受けられる場合がある。法人に移すと、この扱いはなくなる | 段階2 |
| 繰上げ返済や完済が進み、黒字が増えてきた | 検討を始める時期 | 給与と合わせた税負担、法人の維持費、法人から個人にお金を移すときの税金と社会保険を合わせ、手取りで比べる。新たに買う物件から法人名義にする選択肢もある | 段階3 |
| 家族への承継を考えている | 相続も含めて検討する | 家族への所得分散や相続の観点で、法人を使う意味が出てくる。既存の物件を法人に移すコストも確認が必要 | 段階4 |
表2 規模から見た判断
| 保有規模 | 法人化の検討度合い | 判断のポイント | 詳しくは |
|---|---|---|---|
| 1室〜数室 | 個人のままが基本 | 家賃収入の規模に対して、法人の設立費用や毎年の固定費の負担が重くなりやすい | 個人と法人で何が変わるか |
| おおむね10室以上(税務上の「事業的規模」) | 個人のままでも使える仕組みと比べる | 建物の貸付けは、独立した室数がおおむね10室以上であれば、原則として事業として行われているものとして扱われる。事業的規模になると、個人のままでも青色申告特別控除の上限が上がり、届出などの要件を満たせば家族への専従者給与も経費にできる (参照*1)。法人化は、こうした個人の仕組みと比べたうえで判断する | 段階3 |
| 個人名義での借入れが上限に近づき、さらに買い増したい | 融資の観点から検討する | 個人の借入れの余力とは別に、法人名義での借入れを検討する人もいる。ただし、法人の決算実績や金融機関の方針によって条件は大きく変わる | 段階1、段階3 |
物件を持ちながら買い増しを考えている場合など、複数の行にあてはまるときは、それぞれの判断ポイントをあわせて確認してください。
2. 不動産投資の法人化とは
不動産投資の法人化とは、あなた自身が出資して会社をつくり、その会社の名義で物件を持つことです。このように資産を持つことを目的にした会社は、一般に「資産管理会社」と呼ばれます。
個人で物件を持っている場合、家賃収入はそのままあなたの収入になり、給与などとあわせて所得税と住民税がかかります。法人化すると、家賃収入は会社の収入になり、会社の利益に法人税などがかかります。あなたは会社の役員として、会社から役員報酬を受け取る立場に変わります。
ここで押さえておきたいのは、法人化すると、家賃収入が「あなたのお金」ではなく「会社のお金」になるという点です。会社に入ったお金をあなたが生活に使うには、役員報酬などの形で受け取る必要があり、そのときにもあらためて税金や社会保険料がかかります。法人化の損得を考えるときは、会社の税金だけでなく、最終的にあなたの手元にいくら残るかで比べることが大切です。この点は、次の「個人と法人で何が変わるか」で詳しく説明します。
この記事で扱う法人化の範囲
法人化には、会社で物件を持つ方法のほかに、物件は個人で持ったまま、管理業務だけを自分の会社に任せる方法もあります。ただ、後者は会社に支払える管理料に一定の相場があり、仕組みも複雑になるため、この記事では、会社の名義で物件を持つ方法を中心に説明します。
3. 個人と法人で何が変わるか
税金のかかり方の違い
個人で物件を持つか、法人で持つかによって、かかる税金と税率の決まり方が変わります。
表3 個人と法人の税金の違い
| 個人で持つ場合 | 法人で持つ場合(資本金1億円以下) | |
|---|---|---|
| 税金がかかる対象 | 給与など、ほかの所得と合算した所得 | 会社の利益 |
| 主な税金 | 所得税、住民税 | 法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税 |
| 税率の決まり方 | 所得が増えるほど税率が上がる(7段階) | 2段階 |
| 税率 | 所得税5%〜45% (参照*2)、住民税10% (参照*3) | 法人税は年800万円以下の部分15%、800万円超の部分23.2% (参照*4) |
個人の所得税は、課税所得の金額に応じて次のように税率が上がります。税率が上がるのは、その区分を超えた部分だけです。
表4 個人の所得税と住民税の税率
| 課税所得 | 所得税の税率 (参照*2) | 住民税と合わせた税率の目安 |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 15% |
| 195万円以上330万円未満 | 10% | 20% |
| 330万円以上695万円未満 | 20% | 30% |
| 695万円以上900万円未満 | 23% | 33% |
| 900万円以上1,800万円未満 | 33% | 43% |
| 1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 50% |
| 4,000万円以上 | 45% | 55% |
※住民税と合わせた税率は、所得税の税率に住民税の10%を足した編集部による目安です。復興特別所得税は含んでいません。
表3と表4を並べると、法人のほうが税率が低く見えます。ただし、法人には法人税のほかにも地方法人税や法人住民税、法人事業税がかかるため、法人税の税率だけを個人の税率と比べることはできません。
法人化で得られるもの
法人化で得られる主なものは、次の3つです。
1つ目は、利益が大きくなったときの税率の差です。個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がりますが、法人税の税率は2段階にとどまります。給与と不動産所得を合わせた所得が高くなるほど、この差が意味を持ちはじめます。
2つ目は、家族への所得の分散です。家族を会社の役員にし、実際の業務に見合った報酬を支払えば、家賃収入をあなた1人ではなく家族で分けて受け取ることができます。所得が分かれれば、1人あたりにかかる所得税の税率を抑えられます。
3つ目は、相続のしやすさです。物件そのものではなく、物件を持つ会社の株式(合同会社の場合は持分)を家族に引き継ぐ形をとれるため、承継の進め方に選択肢が増えます。詳しくは段階4で説明します。
法人化で失うもの
一方で、法人化によって手放すものもあります。
最も大きいのは、給与との損益通算です。個人で物件を持っている場合、不動産所得が赤字になれば、その赤字を給与などほかの黒字の所得から差し引くことができます (参照*5)。差し引いた分だけ課税される所得が減り、会社の給与から天引きされていた所得税が確定申告で戻ってくることがあります。法人で物件を持つと、赤字は会社の中にとどまり、あなたの給与とは差し引きできません。
なお、個人の場合でも、不動産所得の赤字のうち、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は損益通算の対象になりません (参照*5)。
次に、お金と手間がかかります。会社の設立には登記などの費用がかかり、設立後も毎年、決算と申告が必要です。多くの場合、税理士に依頼することになり、その報酬が毎年の固定費になります。また、法人住民税の均等割は会社が赤字でも毎年かかり、東京23区内に事務所があり、資本金等の額が1,000万円以下・従業者50人以下の場合でも年7万円です (参照*6)。
さらに、会社のお金と個人のお金をはっきり分けて管理する必要があります。家賃収入を生活費に回すには、役員報酬などの形で会社から受け取る手続きを踏まなければなりません。
「課税所得900万円」の目安を読むときの注意
法人化の目安として、「課税所得900万円」という数字を目にしたかもしれません。表4のとおり、課税所得が900万円を超える部分から所得税の税率は33%に上がり、住民税と合わせると43%になります。個人の税負担が重くなりやすい境目として使われている数字です。
この数字を自分にあてはめるときには、2つ注意が必要です。
1つ目は、会社員の場合、900万円は不動産所得だけの金額ではないということです。税率は、給与と不動産所得を合算した課税所得で決まります。同じ100万円の黒字でも、給与の課税所得によってかかる税金は大きく変わります。
表5 不動産所得の黒字100万円にかかる税金の計算例
| 給与の課税所得 | 合算後の課税所得 | 黒字100万円にかかる所得税の税率 | 所得税と住民税の増加額の目安 |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 300万円 | 10% | 約20万円 |
| 500万円 | 600万円 | 20% | 約30万円 |
| 950万円 | 1,050万円 | 33% | 約43万円 |
※課税所得は、年収から給与所得控除や各種の所得控除を差し引いた後の金額です。年収とは異なります。
※表4の税率をもとにした編集部による計算例です。復興特別所得税は含んでいません。
給与の課税所得が高いあなたほど、不動産所得の黒字がわずかでも高い税率がかかります。反対に、給与の課税所得がそれほど高くなければ、不動産所得がある程度増えても、税率は大きく上がりません。
2つ目は、法人の税率が低くても、そのお金はまだあなたの手元に届いていないということです。会社に残った利益をあなたが生活に使うには、役員報酬などとして受け取る必要があり、そこでもう一度、所得税や住民税、社会保険料がかかります。法人化の損得は、会社の税金だけでなく、最終的にあなたの手元にいくら残るかで比べる必要があります。具体的な比べ方は、段階3で説明します。
4. 段階別に見る、法人化の判断
ここからは、冒頭の早見表で示した4つの段階ごとに、法人化をどう考えればよいかを説明します。今のあなたにあてはまる段階から読んでいただいてもかまいません。
段階1 これから1戸目を買う:最初から法人で買う必要はあるか
これから1戸目を買うあなたにとって、最初から法人で買う必要は、ほとんどの場合ありません。理由は3つあります。
1つ目は、購入して間もない時期は、不動産所得が赤字になりやすいことです。物件を買うと、登録免許税や不動産取得税といった税金がかかりますが、これらは必要経費にできます (参照*7)。そのため、購入した年やその翌年は、不動産所得が赤字になることがあります。個人で買っていれば、この赤字を給与から差し引けるので、払いすぎた所得税が確定申告で戻ってくることがあります (参照*5)。法人で買うと、赤字は会社の中にとどまり、あなたの給与とは差し引きできません。
2つ目は、1戸分の家賃収入に対して、法人の費用が重くなりやすいことです。会社の設立費用に加え、毎年の決算や申告にかかる税理士報酬、会社が赤字でもかかる法人住民税の均等割などが、毎年の固定費になります。具体的な費用は「法人化を決めたら:手順と毎年かかる費用」で説明します。
3つ目は、融資の判断です。設立したばかりの会社には決算の実績がないため、金融機関は会社ではなく、代表者であるあなた個人の収入や勤務先などを見て判断することになります。そのうえで、個人で借りる場合と比べて条件が変わったり、法人名義での融資を取り扱っていなかったりすることもあります。
表6 1戸目を個人で買う場合と法人で買う場合の違い
| 個人で買う | 法人で買う | |
|---|---|---|
| 購入して間もない時期の赤字 | 給与から差し引け、所得税が戻ることがある | 会社の中にとどまり、給与とは差し引きできない |
| 設立・維持の費用 | かからない | 設立費用と、毎年の固定費がかかる |
| 融資 | あなた個人の年収や勤務先などをもとに審査される | 会社に実績がないため、代表者個人を見て判断される。条件は金融機関によって異なる |
| 申告の手間 | 個人の確定申告 | 会社の決算と申告(税理士に依頼することが多い) |
もし誰かに「最初から法人で買ったほうがいい」と勧められたのなら、その理由を確かめてみてください。理由が「税金が安くなるから」だけであれば、注意が必要です。不動産投資の目的は、家賃収入で長く安定した収入を得ることです。税金を入口に考えはじめると、物件選びやローンの組み方の軸がずれてしまうことがあります。
1戸目の段階で大切なのは、法人にするかどうかより、無理のない資金計画と、長く入居者が見込める物件を選ぶことです。自己資金は60万円〜100万円程度を目安に、購入後は繰上げ返済でローンの残高を減らしていく。その結果として不動産所得の黒字が増えてきたときが、法人化を考えはじめる時期です(段階3)。
ただし、最初から短い期間で多くの物件を買い進める計画を立てているなら、事情は変わります。個人で買った物件を後から法人に移すには税金などのコストがかかるため、計画の段階で税理士に相談しておくと安心です。
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段階2 ローン返済中で不動産所得が赤字:個人のほうが有利になりやすい理由
ローンを返済している間は、家賃収入があっても、確定申告上は不動産所得が赤字になることがあります。赤字の主な原因は、減価償却費とローンの利息です。
減価償却費とは、建物の購入にかかった金額を、購入した年に一度に経費にするのではなく、使える期間にわたって分けて経費にしていくものです (参照*8)。実際にお金が出ていくわけではない帳簿上の経費のため、手元にお金が残っていても、申告上は赤字になることがあります。
この段階で法人化を急がなくてよい理由は、段階1と同じく、個人なら赤字を給与から差し引けるためです (参照*5)。法人で物件を持つと、青色申告をしていれば赤字を会社の中で翌年以降に繰り越すことはできますが (参照*9)、あなたの給与にかかる税金が戻ることはありません。
表7 不動産所得が50万円の赤字だった場合の違い(計算例)
| 個人で持っている場合 | 法人で持っている場合 | |
|---|---|---|
| 赤字50万円の扱い | 給与の課税所得から差し引く | 会社の赤字として、翌年以降に繰り越す(青色申告の場合) |
| 給与の課税所得が500万円のあなたの場合 | 課税所得が450万円に下がる | 500万円のまま |
| あなたの税金への影響 | 所得税が約10万円、住民税が約5万円少なくなる | 変わらない |
※表4の税率(課税所得330万円以上695万円未満の所得税20%、住民税10%)をもとにした編集部による計算例です。復興特別所得税は含んでいません。
※赤字のうち、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は、給与から差し引くことができません (参照*5)。実際に差し引ける金額は、表の金額より少なくなることがあります。
ただし、ここで1つ覚えておいてほしいことがあります。赤字によって税金が戻るのは、あなたがすでに払った税金の一部が返ってくるだけで、赤字そのものが利益を生んでいるわけではありません。不動産投資の目的は、あくまで家賃収入で長く安定した収入を得ることです。
そして、この赤字はいつまでも続くものではありません。減価償却費は、建物の購入金額を決められた期間に配分していくものなので、償却が進めばいずれ計上できなくなります。ローンの利息も、返済が進むにつれて少なくなります。特に繰上げ返済をすれば、ローンの残高が早く減り、そのぶん利息も減っていきます。
つまり、ローンを返済しながら物件を持ち続けていれば、不動産所得はやがて赤字から黒字に変わっていきます。そのときが、法人化を考えはじめる段階3です。
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段階3 繰上げ返済・完済が進み黒字が増えた:法人化を考えはじめる時期
ローンの利息と減価償却費が少なくなるにつれて、不動産所得は赤字から黒字に変わっていきます。繰上げ返済で残高が減ったり、完済したりすれば、家賃収入の多くがそのまま所得になります。
納める税金が増えると負担に感じるかもしれませんが、黒字が増えるのは、物件がしっかり家賃収入を生み、返済が順調に進んでいる証拠です。そのうえで、税金とどう向き合うかを考えていきましょう。
持っている部屋の数で、取れる選択肢が変わる
税金への対策は、いきなり法人化から考える必要はありません。持っている部屋の数によって、個人のままでも使える仕組みが変わるためです。
表8 持っている部屋の数と、取れる選択肢
| 持っている部屋の数 | 個人のままでできること | 法人化の考え方 |
|---|---|---|
| 1室〜数室 | 青色申告で確定申告する(特別控除は最高10万円) | 法人の固定費に見合いにくく、個人のままが基本 |
| おおむね10室以上(税務上の事業的規模) | 青色申告特別控除が最高55万円(電子帳簿保存またはe-Taxで65万円)になる。届出などの要件を満たせば、家族に支払う給与も経費にできる (参照*1) | 個人のままで使える特典と比べて判断する |
| 10室を超え、さらに買い増していく | 上記と同じ | 新たに買う物件から法人名義にすることを検討する |
※青色申告特別控除の金額は、令和8年分までの扱いです。
ワンルームを1戸ずつ買い増していく場合も、部屋の数がおおむね10室に達すれば、原則として事業的規模として扱われます。家族に物件の管理を手伝ってもらい給与を支払えば、法人を設立しなくても、家族と所得を分けることができます。
法人化を考えはじめてよいのは、3つがそろったとき
部屋の数に加えて、次の3つがそろったら、法人化を具体的に検討してよい時期です。
- 不動産所得の黒字が、一時的ではなく毎年安定して出ている
- 給与と合わせた課税所得が高く、黒字に高い税率がかかっている(表4・表5を参照)
- これからも物件を買い増していく予定がある
どれか1つでも欠けているなら、まずは表8の「個人のままでできること」から始めるほうが、手間もお金もかかりません。
判断するときは、税理士に試算を依頼する
法人化で得をするかどうかは、法人の税金だけでなく、会社からお金を受け取るときの税金や社会保険、毎年の固定費まで含めて、最終的に手元に残るお金で比べる必要があります。計算はあなたの状況によって大きく変わるため、税理士に試算を依頼してください。
依頼するときは、次の3つを伝えると、比べやすい試算をしてもらえます。
- 給与の金額と、昨年の課税所得
- 物件ごとの家賃収入、経費、ローンの残高
- 今後の購入予定と、役員として会社を手伝える家族がいるかどうか
新たに買う物件から法人名義にする方法もある
法人化というと、持っている物件をすべて会社に移すイメージがあるかもしれません。けれど、すでに持っている物件は個人のまま持ち続け、これから買う物件だけを法人名義にする方法もあります。
この方法なら、物件を移すときにかかる税金や登記費用がかかりません。繰上げ返済や完済が進んだ個人の物件からは家賃収入を受け取り続け、買い増し分を法人で持つことで、法人化の効果を少しずつ取り入れられます。ただし、個人の確定申告と会社の決算・申告の両方が必要になります。
すでに持っている物件を法人に移す場合のコストは、「個人で持っている物件を法人に移すときの注意点」で説明します。
段階4 家族への承継を考える:相続・所得分散の観点
物件を家族に引き継ぐことを考えはじめると、法人で持つことにも意味が出てきます。
法人で物件を持っている場合、家族に引き継ぐのは物件そのものではなく、物件を持つ会社の株式(合同会社の場合は持分)です。合同会社の持分を引き継ぐには定款での定めが必要になる点は、「法人化を決めたら:手順と毎年かかる費用」で説明します。また、家族を役員にして、業務に見合った報酬を支払えば、引き継ぐ前の段階から家賃収入を家族に分けていくこともできます。
一方で、個人のままでも承継は十分に考えられます。ワンルームを複数戸持っているなら、1戸ずつ相続人に分けやすいためです。
表9 承継の観点から見た、個人と法人の違い
| 個人で持つ場合 | 法人で持つ場合 | |
|---|---|---|
| 家族に引き継ぐもの | 物件そのもの | 物件を持つ会社の株式(合同会社の場合は持分) |
| 引き継ぐ前の所得の分け方 | 事業的規模なら、要件を満たせば家族への給与を経費にできる | 家族を役員にして、報酬を支払える |
| 注意点 | 物件の数が少ないと、相続人の間で分けにくいことがある | 既存の物件を移すコストや、会社を維持する手間がかかる |
相続税の計算や株式の評価は、家族の構成や資産の内容によって大きく変わります。承継を目的に法人化を考える場合は、税理士に早めに相談してください。
5. 法人化を決めたら:手順と毎年かかる費用
株式会社か、合同会社か
物件を持つための会社は、株式会社か合同会社のどちらかで設立するのが一般的です。違いは主に設立時の手続きと費用、そして家族への引き継ぎ方です。
表10 株式会社と合同会社の主な違い
| 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 公証役場での定款の認証 | 必要(手数料がかかる) | 不要 (参照*10) |
| 設立登記の登録免許税 | 資本金の額の0.7%(15万円に満たないときは15万円) (参照*11) | 資本金の額の0.7%(6万円に満たないときは6万円) (参照*11) |
| 家族に引き継ぐもの | 株式 | 持分。ただし社員が亡くなると原則として退社となるため、相続人が持分を引き継ぐには定款にその旨の定めが必要 (参照*12) |
取引先に向けて会社の名前を示す機会が少ない資産管理会社では、設立費用を抑えられる合同会社を選ぶ方法もあります。ただし、家族への承継を考えるなら、合同会社では定款の定め方が重要になります。どちらがよいかは、税理士や司法書士に相談して決めてください。
設立から物件購入までの流れ
表11 会社設立から物件購入までの流れ
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 会社の形と基本事項を決める | 株式会社か合同会社か、資本金の額、役員を誰にするか |
| 2 | 定款を作る | 株式会社は公証役場で認証を受ける |
| 3 | 資本金を払い込む | 発起人(合同会社の場合は社員)の個人口座に払い込むのが一般的 |
| 4 | 法務局で設立登記をする | 登録免許税を納める |
| 5 | 税務署や都税事務所などに設立を届け出る | 青色申告の承認申請もあわせて行う |
| 6 | 会社名義の銀行口座をつくり、物件購入と融資の準備をする | 融資の可否や条件は金融機関によって異なる |
手順1〜4は司法書士、手順5以降の届出や毎年の決算・申告は税理士に依頼することができます。
毎年かかる費用
会社は、設立したあとも毎年費用がかかります。家賃収入が少ない年や赤字の年でもかかる費用があることに注意してください。
表12 会社を持つと毎年かかる主な費用
| 費用 | いつかかるか | 目安 |
|---|---|---|
| 法人住民税の均等割 | 赤字でも毎年かかる | 東京23区内に事務所があり、資本金等の額が1,000万円以下・従業者50人以下の場合、年7万円 (参照*6) |
| 税理士報酬 | 決算・申告を依頼する場合 | 依頼する内容や会社の規模によって異なる |
| 法人税・法人事業税など | 利益が出た場合 | 利益の額によって異なる |
| 社会保険料 | 役員報酬を支払う場合 | 報酬の額によって異なる(「会社員が法人を持つときの注意点」で説明) |
段階1で、1戸目から法人で買うと費用が重くなりやすいとお伝えしたのは、表12の費用が家賃収入の規模にかかわらず毎年かかるためです。
6. 個人で持っている物件を法人に移すときの注意点
すでに個人で持っている物件を法人に移すには、あなたが自分の会社に物件を売る形をとるのが一般的です。自分の会社との取引でも、通常の売買と同じように税金や費用がかかります。
移すときにかかる主な税金と費用
表13 個人の物件を法人に移すときにかかる主な税金・費用
| 負担する人 | 税金・費用 | 内容 |
|---|---|---|
| あなた(売る側) | 譲渡所得にかかる所得税・住民税 | 売った価格が、買ったときの価格などを上回ると課税される。給与とは分けて計算する (参照*13) |
| 会社(買う側) | 登録免許税 | 売買による所有権の移転登記にかかる。建物は不動産の価額の2%、土地は2%(令和11年3月31日までに登記する場合は1.5%) (参照*11) |
| 会社(買う側) | 不動産取得税 | 不動産を取得した法人にもかかる都道府県の税金。固定資産評価額をもとに計算し、本則は4%。土地と住宅は令和9年3月31日までの取得なら3%で、土地は課税標準を2分の1にする特例もある (参照*14) |
| あなたと会社 | 司法書士報酬、ローンの手続き費用など | 依頼内容や金融機関によって異なる |
※登録免許税の「不動産の価額」は、原則として固定資産課税台帳に登録された価格です。
売る側のあなたにかかる税金は、物件を持っていた期間によって税率が大きく変わります。
表14 譲渡所得にかかる所得税の税率
| 売った年の1月1日時点の所有期間 | 区分 | 所得税の税率 |
|---|---|---|
| 5年を超える | 長期譲渡所得 | 15% |
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 30% |
※国税庁の資料 (参照*13) に基づきます。このほかに、復興特別所得税と住民税がかかります。
買ってから間もない物件を移すと、高い税率がかかる可能性があります。所有期間は「売った日」ではなく「売った年の1月1日時点」で判断する点にも注意してください。
自分の会社だからといって、安く売ることはできない
自分の会社に売るのだから、価格は自由に決めてよいと考えるかもしれません。けれど、個人が法人に著しく低い価格で資産を売った場合、時価で売ったものとみなして税金が計算されます (参照*15)。売買の価格は、不動産会社の査定などをもとに、時価を基準に決める必要があります。
ローンが残っている物件は、事前に金融機関への相談が必要
個人で借りたローンが残っている物件を会社に移す場合は、事前に金融機関への相談が必要です。会社が物件を買い取る形をとるなら、個人のローンを返済したうえで、会社が購入資金を用意することになります。会社が新たに融資を受けられるかどうかは、金融機関の判断によります。
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移すより、新たに買う物件から法人名義にする選択肢も
このように、すでに持っている物件を移すには、あなたと会社の両方に税金や費用がかかり、ローンの扱いも課題になります。段階3でお伝えしたとおり、すでに持っている物件は個人のまま持ち続け、これから買う物件を法人名義にする方法なら、こうしたコストはかかりません。
既存の物件を移すかどうかは、移すときのコストと、移したあとに見込める効果を比べて判断することになります。必ず税理士に試算を依頼してください。
7. 会社員が法人を持つときの注意点
会社員のまま資産管理会社を持つ場合は、税金のほかに、勤務先との関係と社会保険について確認しておく必要があります。
表15 会社員が法人を持つときに確認すること
| 確認すること | 内容 | 相談先 |
|---|---|---|
| 勤務先の就業規則 | 副業・兼業や、ほかの会社の役員に就くことが認められているか | 勤務先の人事部門 |
| 社会保険 | 自分の会社から役員報酬を受け取ると、社会保険の手続きが必要になる | 年金事務所、社会保険労務士 |
| 家族への役員報酬 | 家族の業務の実態に見合った金額にする | 税理士 |
勤務先の就業規則を確認する
厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月8日改定版)を公表し、モデル就業規則にも副業・兼業の規定を設けています (参照*16)。ただし、実際にどこまで認めるかは会社ごとに異なります。厚生労働省も、副業を始めるときはまず勤務先の就業規則でルールを確認するよう呼びかけています (参照*17)。
物件を個人で持つことは認められていても、会社を設立して役員に就くことは別の扱いになっている場合があります。法人化を決める前に、就業規則を確認し、必要であれば人事部門に相談してください。
役員報酬を受け取ると、社会保険の手続きが必要になる
株式会社などの法人の事業所は、事業主1人だけの会社であっても、厚生年金保険の適用事業所になります (参照*18)。あなたが自分の会社から役員報酬を受け取る場合、会社として社会保険の手続きが必要になります。
さらに、勤務先と自分の会社の2か所で社会保険に加入することになった場合は、加入した日から10日以内に、どちらを主たる事業所にするかを選んで届け出る必要があります (参照*19)。届け出たあとは、両方の会社の報酬をもとに標準報酬月額が決まり、その決定は両方の会社に通知されます (参照*20)。勤務先にも手続きが及ぶということです。
役員報酬をいくらにするか、そもそも支払うかどうかで、税金と社会保険料の負担は大きく変わります。段階3でお伝えした税理士への試算の依頼とあわせて、社会保険の扱いも確認してください。
家族を役員にするときは、業務の実態に見合った報酬に
家族を役員にして報酬を支払うと、家賃収入を家族に分けることができます。ただし、役員報酬が会社の経費として認められるのは、毎月同じ額を支払う「定期同額給与」などに限られ、該当する場合でも不相当に高額な部分は経費になりません (参照*21)。
家族に報酬を支払う場合は、物件の管理や会社の経理など、実際に担ってもらう業務を決めたうえで、それに見合った金額にしてください。家族が役員報酬を受け取る場合も、社会保険の手続きが必要になることがあります。
8. よくある質問
- 不動産投資の法人化は、所得がいくらになったら検討すべきですか?
- 一律の金額はありません。会社員の場合、税率は給与と不動産所得を合算した課税所得で決まるため、同じ黒字でも人によって税負担が変わります(表4・表5)。不動産所得の黒字が毎年安定して出ていること、黒字に高い税率がかかっていること、今後も買い増す予定があることの3つがそろったら、税理士に試算を依頼して判断してください(段階3)。
- ワンルーム1戸でも法人化できますか?
- 法人化そのものはできますが、おすすめしにくい選択です。会社には、赤字でも毎年かかる法人住民税の均等割(東京23区内で最も小さい区分の場合、年7万円 (参照*6))や税理士報酬などの固定費があり、1戸分の家賃収入では負担が重くなりやすいためです。また、購入して間もない時期の赤字を給与から差し引けなくなります(段階1)。
- 法人化すると、勤務先に知られますか?
- 知られずに進めることを前提にするのではなく、まず勤務先の就業規則を確認してください。自分の会社から役員報酬を受け取り、勤務先と2か所で社会保険に加入することになった場合は、どちらを主たる事業所にするかの届出が必要になり (参照*19)、勤務先にも手続きが及びます(会社員が法人を持つときの注意点)。
- 不動産所得が赤字のうちは、法人化しないほうがいいですか?
- 多くの場合、個人のままのほうが有利です。個人であれば、不動産所得の赤字を給与などの所得から差し引くことができ (参照*5)、払いすぎた所得税が確定申告で戻ることがあります。法人で持つと、この扱いはなくなります(段階2)。
9. まとめ
不動産投資の法人化は、税金の安さだけで決めるものではありません。法人化が役に立つかどうかは、あなたが今どの段階にいて、どのくらいの規模で物件を持っているかによって変わります。
これから1戸目を買うなら、法人化よりも、無理のない資金計画と物件選びを優先してください。ローンを返済していて不動産所得が赤字なら、給与と差し引きできる個人のままのほうが有利なことが多いはずです。繰上げ返済が進んで黒字が増え、部屋の数も増えてきたら、まず個人のままで使える仕組みを確かめ、そのうえで税理士に試算を依頼して判断します。すでに持っている物件を移すより、これから買う物件を法人名義にする方法もあります。
不動産投資の目的は、家賃収入で長く安定した収入を得ることです。法人化は、その目的に向かって物件を持ち続けた先で、選択肢の1つとして検討すれば十分に間に合います。
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10. 出典一覧
- [*1] 国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」(令和8年4月1日現在法令等)
- [*2] 国税庁「No.2260 所得税の税率」(令和8年4月1日現在法令等)
- [*3] 総務省「個人住民税の概要」(説明資料)
- [*4] 国税庁「No.5759 法人税の税率」(令和8年4月1日現在法令等)
- [*5] 国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」(令和8年4月1日現在法令等)
- [*6] 東京都主税局「法人都民税・事業税・特別法人事業税の中間・確定申告書(第6号様式(その3))記載の手引(令和7年改正)」
- [*7] 国税庁「No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合」(令和8年4月1日現在法令等)
- [*8] 国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」(令和8年4月1日現在法令等)
- [*9] 国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」(令和8年4月1日現在法令等)
- [*10] 法務省「定款認証制度について」(会議資料)
- [*11] 国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
- [*12] 国税庁 質疑応答事例「持分会社の退社時の出資の評価」(財産評価)
- [*13] 国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」(令和5年4月1日現在法令等)
- [*14] 国土交通省「土地の取得に係る税制の概要(参考)」
- [*15] 国税庁 税務大学校「法人に対する不動産の遺贈に係るみなし譲渡所得課税に関する問題点」(税大論叢)
- [*16] 厚生労働省「副業・兼業」
- [*17] 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」リーフレット(労働者の方向け)
- [*18] 日本年金機構「適用事業所と被保険者」(2026年6月26日更新)
- [*19] 日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」(手続概要)
- [*20] 厚生労働省 社会保険審査会 裁決例(令和2年 厚生年金保険・健康保険 標準報酬月額関係)
- [*21] 国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(令和8年4月1日現在法令等)


