切り離された電車
2019/04/04
「さっきまであの列車に乗っていたんです!」
ひとり残された小田原駅で駅員さんをつかまえ、必死で状況を説明します。
財布もない。切符もない。
唯一の連絡手段であるスマートフォンさえもありません。
駅から出ることさえ許されない状況に、すっかり気が動転してしまっていたのです。
およそ1年半前の夏、彼と一緒に初めて箱根へ旅行に行きました。
付き合い始めてからなかなか休みの合わないこともあり、旅行が決まってからというもの、楽しみで仕方がありませんでした。
駅で待ち合わせ、乗り込んだ電車の中ではさっそくお酒を取り出し乾杯します。
普段はあまりお酒を飲まない私ですが、この時ばかりは旅行の高揚感とお酒好きな彼に合わせて一緒に飲みました。
ふと目を覚ますと、目的地のひとつ手前、小田原駅に停車していました。
隣を見ると、彼も寝息を立てています。
着くまでにお手洗いを済ませておこうと、隣の車両に眠気眼をこすりながら向かいました。
しかし、ここで思いがけない事件が起こったのです。
席に戻ろうとすると、なぜかまだ列車は動いていません。
代わりに清掃員の方々がせわしなく動き、私の顔を不思議そうな目で見てきます。
様子がおかしいとすぐに車両を飛び降りると、さっきまで乗っていた、そこにあるはずの車両がありません。
彼が乗っている車両までが切り離され、箱根へと走って行ってしまったのです!
(彼に連絡を・・・)
しかし、身ひとつで席を立ったため、携帯電話はありません。
すぐに駅員さんに相談したところ、次の列車を待つしかないと言われてしまいました。
はやる気持ちを抑えながら、およそ30分後に着いた列車に乗り込みます。
箱根湯本駅では、事情を話したところ外には出してくれましたが、彼の姿は見当たりません。
1時間ほど、近くの売店や観光客の中を探すも、見つかる気配はなかったのです。
(もう会えないんじゃないかな・・・)
なんとか休みを合わせた、待ちに待った2人での旅行。
それなのに、あの時、席を立っていなければ・・・
途方に暮れながら駅に戻ってみると、駅員さんが私のことを呼んでいることに気が付きます。
「小田原駅であなたのことを探している男性がいたって!」
彼は私がいないことに気が付き、急遽小田原へ引き返したらしく、私が箱根湯本に向かったことを知るやいなや、飛び出していったそうです。
(今からでは電車ではなくタクシーで来るのでは)
そう思い、見つかりやすい歩道橋の上で顔を出しながら待っていました。
1台、また1台と過ぎていくタクシーを眺めながら、ひたすら待ちます。
「やっと見つけた!」
待ち始めてから40分ほど、声のする方へ目を向けると、安堵に包まれた表情の彼が歩道橋の先にいました。
およそ3時間ぶりの彼の姿に思わず駆け出します。
再会できた私たちは、その後大いに楽しむことができました。
それ以来、出かけるときには、移動中のお酒はほどほどに控え、どちらかは起きているようにしています。
思いがけない出来事でしたが、万が一のときのルールを決めるきっかけになり、今では笑い話のひとつとなっています。
初めての2人旅行は、大きなハプニングから始まりましたが、2人にとって忘れがたい初旅行となりました。
日本財託管理サービス 契約部新規契約課 佐藤 真帆(さとうまほ)
◆ スタッフプロフィール ◆
東京都江戸川区出身。
契約部の新規契約課に所属し、自社物件に入居されるお客様の契約書作成業務、契約書処理業務や鍵渡しを行っています。
部署移動からの初めての繁忙期、1か月で750件の契約書作成を全員で乗り越えました!
美味しいもの巡りや恋愛系番組が好きです。
4月で26歳になり4年目になるので、大人な女性を目指していきたいです。